甲状腺とは
甲状腺は、喉仏のすぐ下方にあり、蝶が羽を広げたような形状をしています。甲状腺ホルモンを分泌する内分泌器官です。甲状腺ホルモンは新陳代謝を促す、成長促進する、身体が正常に働くために必要不可欠なホルモンです。また、女性にとっては妊娠の成立に大きな影響があり、甲状腺ホルモンの増減によって月経不順や無排卵が起こるほか、流産や不妊となることが指摘されています。
甲状腺ホルモンの分泌の仕組み
甲状腺ホルモンは、昆布などのヨード(ヨウ素)を主原料として生成されています。甲状腺内の濾胞で生成される甲状腺ホルモンは、脳の下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモンでコントロールされています。血液中の甲状腺ホルモンが過剰でも少なすぎても異常が起こるため、甲状腺刺激ホルモンと甲状腺ホルモンのバランスが重要となります。
女性がなりやすい
甲状腺ホルモンの異常
甲状腺機能の異常には、甲状腺機能亢進症と甲状腺機能低下症があります。それぞれ、バセドウ病(亢進)と橋本病(低下)が代表とされる疾患です。日本人の甲状腺機能異常がある男女の比率は1:5と女性が非常に多いのが特徴です。また、バセドウ病は20~30代女性に多く、橋本病は30~40代女性に多くみられる傾向にあります。
不妊と甲状腺の病気
甲状腺ホルモンは、女性ホルモン分泌に大きく影響を及ぼします。甲状腺ホルモン分泌が過剰でも不足でも、月経不順や無排卵、無月経、不妊などを引き起こすことがあります。甲状腺機能亢進症と甲状腺機能低下症いずれも、自己免疫疾患とされています。
甲状腺機能亢進症(バセドウ病)
甲状腺に炎症が起こり障害されることで、甲状腺ホルモン分泌が過剰になってしまいます。この状態を甲状腺機能亢進症と言います。甲状腺ホルモン分泌過剰の原因にはいくつかあります。甲状腺機能亢進によるホルモン分泌過剰、また甲状腺炎症による細胞破壊で血液中にホルモンが過剰に放出される、さらに治療薬や減量薬などで甲状腺ホルモンを過剰に摂取しすぎるなどが上げられます。甲状腺機能亢進症は、その疾患と原因によって治療が異なります。このため、気になることがありましたらお早めに受診してご相談ください。
バセドウ病について
バセドウ病は、甲状腺機能亢進症のうち最も多い疾患です。主な症状は、動悸や手の震え、多汗など新陳代謝亢進からくる症状のほか、疲労感やイライラなどが現れることがあります。バセドウ病は、適切な治療を行うことでつらい症状をコントロールし緩和することができます。ただし、治療を行わずそのまま放置すると心機能に支障をきたすこともあります。このため、早い段階で治療を始めることが重要となります。
バセドウ病の原因
甲状腺ホルモンは、下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)の調節を受けます。バセドウ病では何らかの原因によって甲状腺にあるTSH受容体に対する抗体が生成され、刺激を受け続けることで甲状腺ホルモンが過剰に分泌されるようになります。バセドウ病は自己免疫疾患のひとつで、血縁者の方がより罹患しやすいことが知られています。
バセドウ病の症状
- 手が震える、文字を書きにくい
- 汗が多くなる、暑がりになる
- 動悸が強くなる
- 疲労感、疲れやすい
- 原因不明の体重減少
- 身体に力が入らない
- 下痢に長期間悩む
- 微熱が続く
- 首が腫れてきた
- 目が出てきた
- 眠れなくなった
- イライラすることが増えた
- 月経が来なくなる
- 月経不順
- 不妊
など
バセドウ病の検査と診断
血液検査を行います。甲状腺刺激ホルモンの低値、甲状腺ホルモンの高値、TSH受容体抗体の有無などを検査します。また、心電図検査などを行い、動悸・不整脈の有無などを評価します。検査結果から総合的に診断を行います。
バセドウ病の治療
主に、薬物治療やアイソトープ治療、外科手術治療などを検討します。
薬物治療
甲状腺ホルモン分泌を抑える薬を用いて治療を行います。甲状腺の腫れが軽い方、症状が軽度の方、妊娠中の女性に適した治療方法です。薬物治療では、稀に深刻な副作用が起こることがあるため、治療を開始したら日にちをあまり空けずに診察し、経過観察を行うことが必要です。
薬物治療の副作用
患者さんによっては、痒みや蕁麻疹などが現れることがあります。症状が強い場合は、治療方針を変更したり、処方薬を変更したりします。症状緩和には抗ヒスタミン薬などで症状を抑えます。その他、発熱や筋肉痛、紅斑、肝機能障害、リンパ腫脹などの症状が起こることがあります。重篤な副作用として無顆粒球症(むかりゅうきゅうしょう)という、白血球の成分の内、好中球が減少する病気があります。細菌に感染しやすく重症化する危険があるため、特に内服開始後の一定期間は注意深い観察が必要です。このため、治療開始してからは定期的に受診していただき、血液検査を含めた経過観察を行います。
外科手術治療
薬物治療を行っても改善効果が得られなかった場合、甲状腺が大きく腫れている場合、早く症状改善を図りたい方には、外科手術治療も検討されます。甲状腺の一部を残して、切除する治療です。短期に治療効果を得られますが、喉の辺りに多少の手術痕が残ること、また入院加療が必要なことなど手術治療におけるデメリットがあります。外科手術治療をご希望の場合は、連携する高度医療機関をご紹介しております。
アイソトープ治療
薬物治療を行っても改善がみられなかった場合、また薬による副作用が強く出た場合、手術治療をした後に再発した場合、心疾患や肝疾患のある方などにはアイソトープ治療を検討します。放射線ヨードカプセルを服用する治療方法です。アメリカではそのアイソトープ治療の安全性についても実証されていて、若い年代の女性が治療しても将来の妊娠に支障がないことも分かっています。ただし、アイソトープ治療を行うことで、将来の甲状腺機能低下症を発症する可能性が高いため、治療後も定期的に経過を観察することが大切になります。
甲状腺機能低下症(橋本病)
甲状腺機能が低下することで甲状腺ホルモンの働きが低下して全身に様々な症状が現れます。甲状腺から分泌される甲状腺ホルモンは、全身の新陳代謝を促し、細胞を活性化させ、成長を促進させる働きがあります。甲状腺に何らかの異常が起こることで全身に支障が及びます。甲状腺は喉ぼとけの下方両側にある内分泌器官を指します。
甲状腺疾患は、甲状腺自体に異常が起こる原発性と、甲状腺に指令を出す下垂体に異常が起こる中枢性とに区別されます。甲状腺疾患は、適切に治療することでつらい症状をコントロールできます。気になる症状がある方は、お早めに受診してください。
甲状腺機能低下症の症状
甲状腺機能低下症の症状は、以下の通りです。
- 疲れやすい、全身の倦怠感
- 足がつりやすい
- 皮膚が乾燥する、痒みが出る
- 体重増加
- 浮腫みやすくなる
- 寒さを感じるようになる
- 便秘
- 月経周期が不安定
- 妊娠しにくい
- 流産しやすい
など
橋本病とは
甲状腺の炎症が慢性的に起きている状態で、徐々に甲状腺機能が低下する疾患を橋本病と言います。男女ともに発症しますが、特に30~40代の女性の発症が多くみられます。発症しても全ての人に甲状腺機能低下がみられるわけではありません。ほとんどのケースで目立った症状がないまま過ごしていて、そのうち約2割程に機能低下による症状がみられます。ただし、重症化すると疲労感や倦怠感、うつ症状、更年期障害、月経不順などの症状が現れます。橋本病は、適切な診断とホルモン治療を行うことでつらい症状をコントロールできます。
橋本病の原因
橋本病は免疫システムの異常によって甲状腺に炎症が起きる自己免疫疾患とされています。甲状腺に慢性的な炎症が起きるため慢性甲状腺炎とも称されます。免疫システムに異常が起きる明確な原因はいまだに特定されていません。甲状腺の炎症の影響で甲状腺機能が低下し、甲状腺ホルモンの分泌が減少することが起因します。
橋本病の検査と診断
血液検査を行います。甲状腺機能や抗甲状腺抗体の有無(TgAb、TPOAb)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)などを検査します。また、触診を行い甲状腺の腫れを診ます。診断は、検査結果から総合的に行います。
橋本病の治療
甲状腺の腫れが軽く、甲状腺機能に異常がみられない場合はそのまま経過観察となります。ただし、甲状腺機能が低下していて甲状腺ホルモン分泌が減少している場合は、甲状腺ホルモンの補充治療を検討します。また、甲状腺の腫れが重度で日常生活に支障をきたす場合には、手術治療を行うこともあります。